迎撃ミサイル不足で人命救えず……キーウ攻撃で見えたウクライナの苦境

ダン・ジョンソン・ウクライナ特派員(キーウ)
ウクライナの首都キーウ近郊のクヴィトネヴァ駅では、所々へこんだプラットフォームで作業員らが遺体を収納した白い袋を持ち上げ、待機している救急車へと運んでいる。
ロシアによる大規模空爆で8人が殺された場所には、靴、めがね、そして衣服の一部が残されている。
ロシアは一晩に115機のドローンと24発の弾道ミサイルを発射した。ウクライナはドローンのほとんどを撃墜したが、防空網は脆弱(ぜいじゃく)で、ミサイルは1発も迎撃できなかった。
この攻撃ではウクライナ全土で21人が殺された。うち17人はキーウで犠牲となった。負傷者も数十人に上った。
ロシア軍の攻撃は、オンライン小売業者の倉庫から郵便仕分けセンターまで、保管や物流の施設を破壊した。
クヴィトネヴァでは、標的が鉄道駅だったのか、隣接する倉庫だったのかは不明だ。倉庫も攻撃を受け、攻撃から数時間後もまだくすぶっていた。少し離れた場所にある別の倉庫は、攻撃から12時間以上たってもなお炎上していた。
攻撃は深夜、日付が5日にかわった直後に始まった。ほとんど予告はなかった。キーウがここ数カ月で経験した中で、最も激しい攻撃の一つだった。
この攻撃で、アナスタシア・ダドリーさんの自宅はほぼ全壊した。それでも、ダドリーさんと母親は無事だった。ショックは受けたが、けがはなかった。
この夜は、2022年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始して以降で「最も恐ろしい夜」だったと、ダドリーさんは語る。
ダドリーさんは、今にも崩れ落ちそうな自宅の壁を見上げている。近くの倉庫と駅にミサイルが着弾する数時間前に、この家はドローンに攻撃されたと、ダドリーさんは話した。
「1階と2階しか見えませんが、元々は屋根付きの3階建ての家だった」
現在、建物の最上階は失われている。「屋根も3階もなく、2階もひどく損傷している。かなり不安定な状態です」。
ウクライナの人々は4年半にわたって戦争を生きてきた。今や防空システムはますます弱くなり、一度に数十人の死者が出る事態が発生している。
ウクライナはロシアの弾道ミサイルの迎撃を、アメリカからのパトリオット迎撃ミサイルの供給に頼ってきた。
しかしアメリカは現在、イランとの戦争で多くの備蓄兵器を使用しており、これ以上を手放すことに消極的だ。ドナルド・トランプ米大統領は7月初旬、ウクライナにパトリオットミサイルの製造ライセンスを供与すると発表したが、先週には「そのような技術を無償で提供する」ことには同意していないとした。

ミサイル迎撃システムがなければ、ウクライナの空は完全に開かれた状態になる。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5日、迎撃ミサイルがあれば「今日失われた命を救えたはずだ」と述べた。
先週の死傷者が出た攻撃では、ロシアが発射したミサイル27発うち、1発しか迎撃できなかった。それを受けてゼレンスキー氏は、迎撃ミサイルの不足が「ロシアに人命を奪うような攻撃を仕掛けるよう促している」と警告した。
さらに5日には、パートナー国からの弾道ミサイル迎撃システムの受領の遅れが「恐ろしい犠牲と破壊」につながっていると指摘した。
その後、「文字通り毎日、ここウクライナの人々の命は、ヨーロッパとアメリカのパートナーの決断力にかかっている」と発言。迎撃ミサイルの入手について、北大西洋条約機構(NATO)のマルク・ルッテ事務総長と話し合ったと明かした。
ウクライナはパトリオット・システムを保有しているが、その数は公表していない。同国で不足しているのは、パトリオットの迎撃ミサイルだ。
飛来する弾道ミサイルを迎撃するには少なくとも2発の迎撃ミサイルが必要となる。また、システムの射程は約160キロにとどまるため、効果的な配置は容易ではない。
一方、ロシアはウクライナへの大規模攻撃を行う際、平均して毎回20発から30発の弾道ミサイルを使用している。

ウクライナの軍事アナリストで元情報機関職員のイワン・ストゥパク氏は、迎撃ミサイルの不足は、ガレージにスーパーカーがあるのにガソリンがないような状態だと説明した。
「ランボルギーニを所有しているのに燃料がない状態を想像してほしい」と、ストゥパク氏はBBCに語った。「世界最高峰の車を持っているのに、どこにも運転して行けない。(中略)パトリオットミサイルの状況も似ている。システムはそろっているのに、迎撃ミサイルがない」。
迎撃ミサイルの不足は、貴重なパトリオットシステムを含め、ウクライナ全体を危険にさらすことになる。
「問題は、システム自体が破壊されるのをどう防ぐかだ」とストゥパク氏は言う。「迎撃システムが、ロシア連邦にとっての優先的な攻撃目標となる可能性が非常に高い」。
「迎撃ミサイルの追加を受け取るまでは、これらのシステムを移設するか、ロシア軍に探知・破壊されないように何らかの方法で隠す必要がある。現状では、システムは極めて脆弱な状態にある」
クヴィトネヴァの鉄道駅では、救急隊員が現場を離れると、別のチームが線路上の送電線を迅速に修復し、運行再開に向けて動き出した。これは、ウクライナの人々がすっかり見慣れてしまった、迅速な復旧と片付けの光景だ。
しかし、ウクライナの人々は、自分たちの空がいつ何時、致命的な攻撃で照らされるか分からないと知っている。その脅威に対抗し、国民の安全を守ることができるかは、ウクライナ国境から遠く離れた場所で行われる迎撃ミサイルの生産と配備に関する決定にかかっている。















