【解説】サウジアラビアの石油危機、世界中で物価上昇の可能性も

画像提供, Bloomberg via Getty Images
ベン・チュー政策・分析担当編集委員、BBCヴェリファイ(検証チーム)
世界のエネルギー価格が再び急騰している。これは主に、ここ数日、イエメンの反政府武装勢力フーシ派とサウジアラビアの紛争が激化し、石油産業に混乱をもたらしていることが原因だ。
ほとんどの国でガソリンとディーゼル燃料の価格が急騰している一方、家庭の暖房や発電に使用される天然ガスの卸売価格は7月以降、イギリスとヨーロッパでほぼ倍増している。
これにより、世界経済に新たなインフレショックが発生するのではないかと、懸念が高まっている。これは金利の上昇、住宅ローン借り入れコストの増加、そして食料品を含むほぼすべての商品の値上がりにつながる可能性がある。
BBCヴェリファイ(検証チーム)は、この最新の傾向の背景と、世界経済への影響を分析した。
ガソリン、ディーゼル燃料、天然ガスの価格が上昇している
世界の原油価格は9月16日時点で1バレルあたり108ドル(約1万7000円)を超えており、2026年6月の70ドルからほぼ50%上昇している。

これにより、イギリスのガソリン平均価格は1リットルあたり170ペンス(約355円)超と、7月の150ペンスから上昇。2022年以来の最高値を更新した。
また、イギリスの天然ガス価格がほぼ倍増したことを受け、同国のガス電力市場監督局(Ofgem)が設定した国内価格の上限は、来年1月に25%上昇すると予測されている。これは、一般家庭にとって年間約440ポンドの負担増となる。

米自動車協会(AAA)のガソリン価格指数によると、アメリカではガソリン1ガロン(3.8リットル)あたりの価格が7月の3.80ドル(約593円)から9月には4.32ドル(約675円)に上昇した。
また、アメリカにおけるディーゼル燃料価格は1ガロンあたり6ドル(約937円)を超え、過去最高水準に達した。これは、2022年にロシアがウクライナ全面侵攻を始めた直後よりも高い水準だ。
価格上昇の要因は
アナリストらは、主な要因は世界的な石油・ガス供給量の減少だと指摘している。
2月下旬にアメリカとイスラエルがイランとの戦争を開始する前は、世界の石油製品と液化天然ガス(LNG)の供給量の約20%が、ペルシャ湾とアラビア海を結ぶホルムズ海峡を通過していた。
このエネルギー流通路は2月以降、イランが商船やアメリカの湾岸地域の同盟国のエネルギー施設を攻撃したり、アメリカがイラン港湾を封鎖したりしたことで崩壊した。
戦争が始まると、サウジアラビアは国内の東西パイプラインの利用を強化し、ホルムズ海峡ではなく紅海経由で石油を輸出するようになった。調査会社Kplerによると、このパイプラインの輸送能力は1日あたり360万バレルだという。
しかし今月11日、このパイプラインがドローン攻撃を受け、操業停止を余儀なくされた。サウジアラビアはこの攻撃について、イランが支援するイラクの民兵組織によるものだと非難している。
また、イエメンのフーシ派も先週、サウジアラビアの複数の石油施設をドローンとミサイルで攻撃。これらの施設も、攻撃による火災のため、一時的に操業を停止した。
下の人工衛星写真は、サウジアラビアの石油パイプライン施設の一つを写したもの。中央のバナーを左右に動かすことで、攻撃前(2025年10月29日)と攻撃後(2026年9月13日)を見比べることができる。今月13日の写真では、中心の施設が攻撃後の火災で黒くなっている。
英シンクタンク「王立国際問題研究所(チャタムハウス)」のニール・クィリアム氏は、パイプラインの修理には最大8週間かかる可能性があると指摘している。一方、トランプ米政権のクリス・ライト・エネルギー長官は15日、CNBCに対し、パイプラインは「間もなく」操業を再開すると話した。
アメリカ政府は、ホルムズ海峡を通過するエネルギー輸送は開戦前とほぼ同量だと主張する。しかし、ほとんどの独立系アナリストは、この水路は依然として著しく阻害されていると判断している。
米エネルギー情報局によると、戦争以前はホルムズ海峡を1日あたり約2100万バレルの石油および石油製品が通過していた。
しかしKplerは、この量は8月末までに1日あたり約860万バレルまで減少したと推定している。

イエメンのフーシ派は過去2週間にわたり、サウジアラビアが支援するイエメン政府軍から、バブ・エル・マンデブ海峡に近い戦略的に重要な地域を奪取した。バブ・エル・マンデブ海峡は紅海の南端にあるもう一つの貿易の要衝であり、2月以前は世界の石油供給量の約5%が通過していた。
また、世界の石油供給量の約5%が通常、紅海の北からスエズ運河とエジプトを横断するパイプラインを通り、地中海へと輸送される。
こうした重要な海上輸送路が今後、ホルムズ海峡のように、イランとその代理勢力によってさらに深刻な混乱に陥る可能性があると懸念されており、これが世界の原油市場価格を押し上げている。
フーシ派は、イエメン南西海岸で侵攻する直前の7月、サウジアラビアの船舶と港湾に対する海上封鎖を実施すると宣言した。一方で、紅海を通過する他国の船舶は攻撃しないとも述べた。
ドナルド・トランプ大統領は、「世界のディーゼル価格の高騰は、イランではなく、主にロシアとウクライナの戦争が原因だ」と発言している。
アナリストらは、ロシアが世界第2位のディーゼル輸出国であることから、ウクライナによるロシアの製油所へのドローン攻撃を含め、この紛争がディーゼル価格に圧力をかけていると指摘している。
しかしアナリストの大半は、最近のエネルギー価格高騰のより大きな原因は、中東での紛争拡大にあると考えている。
世界経済への影響は?
経済学者らによると、世界的なエネルギー価格の高騰が持続すれば、通常は家計の負担がさらに増大し、経済成長が鈍化し、結果として人々の所得や賃金が低下するという。
国際通貨基金(IMF)は今年3月、原油価格が10%持続的に上昇すると、世界のインフレ率が0.4%ポイント上昇し、世界の国内総生産(GDP)成長率が最大0.2%ポイント低下すると推定している。
英中銀イングランド銀行は、世界の原油価格が10%上昇すると、イギリスのインフレ率が短期的に0.5%ポイント上昇し、イギリスのGDP成長率が約0.4%ポイント低下すると推定している。
6月以降の世界的な原油価格の上昇幅は、IMFとイングランド銀行がこれらの評価のために経済モデルで用いたシナリオの約5倍に上る。
しかし、アメリカとイランの間で和平合意が成立すれば、世界の原油価格は再び下落する可能性がある。
6月に両国が暫定合意を締結した後、一時1バレル120ドルまで上昇していた原油価格は、戦争前の水準まで急落した。
(追加取材:ロブ・イングランド記者、ニコラス・バレット記者、ジョシュア・チーザム記者)














