【2026年サッカー男子W杯】 FIFAは主導権を失ったのか ソマリア人審判の入国拒否で浮かび上がる問題

台の上に置かれたW杯のトロフィーの前で、スーツ姿のトランプ氏とインファティーノ氏が握手をしている

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画像説明, FIFAのインファンティーノ会長(右)はこの2年をかけ、トランプ米大統領の機嫌を取ってきた(2025年12月)
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デイル・ジョンソン・サッカー問題担当編集委員

サッカー男子2026年ワールドカップ(W杯)において、サポーターがアメリカに入国する際に困難に直面するのではないかという現実的な懸念は、常に存在していた。

しかし、審判についてはそうではなかった。

W杯は、サッカーにおける最高の中の最高――選手、コーチ、そして審判――を結集させるもののはずだ。

オマル・アルタン氏は、アフリカ随一の審判だ。しかし、今回のW杯で試合を担当することを認められないだろう。

ソマリア出身のアルタン氏は先に、他の51人の審判と合流するため、米マイアミに到着した。本人によると、移民当局による11時間にわたる厳しい尋問の後、飛行機の機内へと戻された

反差別活動団体「フェア」のピアラ・ポーワー事務局長は、「米政府によるイデオロギー的かつ差別的なビザ(査証)政策の恐怖が、現実のものとなっているのは明白だ」と述べた。

「最終準備のために到着したFIFAの公式審判が入国拒否されるなどという茶番を、我々はこれまで見たことがない」とも、ポーワーは語った。

今大会では、移民税関捜査局(ICE)の職員らが試合会場に派遣される可能性や、それが観客に及ぼし得る影響についての懸念も残っている。

W杯開幕まで24時間を切っているが、スタジアムの外で起きることについて、FIFAはほとんど何の力ももたないのだろうか。

W杯の夢をつかんだアルタン氏

青いシャツに黒いハーフパンツ姿のアルタン氏が、フィールドで左手を伸ばすジェスチャーをしている

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画像説明, オマル・アルタン氏は2018年からFIFA公認審判員を務めている。写真は昨年のFIFA U-20・W杯の3位決定戦、コロンビア対フランスの試合で主審を務めた際の様子

2018年のロシア大会と2022年のカタール大会での論争を経て、この2026年大会は、誰もがサッカーそのものに集中できる機会を与えるものになるはずだった。

だが驚くべきことに、このW杯はより大きな論争を呼ぶものになる恐れがある。

法外なチケット価格、チケット販売をめぐる米司法当局からの召喚状、そしてホテルの予約やシャトルバスの運賃についてのFIFAへの批判など、数々の問題が準備段階から付きまとってきた。

しかし今回の件は、FIFA自身の代表団の一員が、数時間にわたる尋問を受けた末に、出発地に送り返されたというものだ。

アルタン氏にとって去年は記憶に残る1年となった。大陸大会の決勝を担当した初のソマリア人となった。

2025年6月、アルタン氏はアフリカ・サッカー連盟(CAF)のチャンピオンズリーグ決勝第2試合で主審を務めた。この試合では、ピラミッズFCがマメロディ・サンダウンズを破った。

その後FIFAは、同氏を南米チリで開催されたU-20・W杯に派遣。3位決定戦を含む3試合を同氏は担当した。

同年末には、アフリカ・ネーションズカップ(AFCON)でグループステージ2試合の主審を務めた。

そして今年3月、アルタン氏はキャリアの頂点となるはずだった最高の栄誉を受けた。

アルタン氏は先週、BBCソマリ語のインタビューで、「すべての審判の目標は、W杯に行くことだ」と語った。

「選ばれたとき、自分のすべての努力が報われたと感じる。長年の努力がついに意味を持つ」とも、アルタン氏は話していた。

アルタン氏は、W杯で試合を担当する初のソマリア人となるはずだった。だが彼は現在、同国の首都モガディシオへと戻った。

アルタン氏は米紙ニューヨーク・タイムズに対し、11時間に及ぶ尋問を受け、その後も数時間にわたって拘束された経緯を語った。

「私は適切な書類をすべて持っていた。正しいビザも持っていた」とアルタン氏は述べた。

米ホワイトハウスでW杯のタスクフォースを率いるアンドリュー・ジュリアーニ氏は、「その件に関する中傷的な情報について述べることはしないが、税関および国境警備当局の判断は正しかったと言えるし、私はその決定を支持する」とBBCに話した

アルタン氏の事例は、トランプ米政権がW杯について誰も特別扱いをしないということを示している。これには代表チームの関係者やサポーターも含まれている。

元イングランド代表のストライカー、イアン・ライト氏はインスタグラムに、「数時間ごとに新たな話が出てくる。入国を拒否されるファン、拒否される選手、拒否される関係者、拒否される記者、そして今度は審判だ」と投稿した。

「これは混乱のW杯だ」

トランプ氏はソマリア人を「ごみ」扱い

FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は、2年をかけてトランプ氏に取り入ってきた。

そのわずか数週間後の2026年年頭、米軍はヴェネズエラに攻撃を仕掛けた。さらに電撃作戦でニコラス・マドゥロ大統領を拘束し、アメリカへ移送した。

さらに2月には、イスラエルと連携しイランへの攻撃を開始した。W杯開催国が、出場国の一つと戦争状態にあるのは、これが初めてだ。

トランプ氏は2017年に初めて大統領に就任した際、最初期の大統領令の一つとして、ソマリアを含むイスラム教徒が住民の多数派を占める7カ国を対象に、入国禁止の措置を実施した

インファンティーノ氏は当時、そのような措置を取れば、その国のW杯開催権は無効になりかねないと示唆していた。

「FIFAの大会に関して言えば、W杯の出場資格を得たあらゆるチーム、そしてそのサポーターや関係者が開催国に入国できる必要がある。そうでなければW杯は成立しないのは明らかだ」と、同氏は述べた。

2023年には、インドネシア・バリ州のワヤン・コスター知事がイスラエル代表の滞在を認めることを拒否したことを受け、FIFAは同国からU-20・W杯の開催権を剥奪している。

こうしたインファンティーノ氏の過去の発言は、現在のアメリカに関しては空虚に見える。

トランプ氏は2025年6月、12カ国を対象に、あらゆるビザに基づく入国を全面的に禁止する措置を下した。これには、ソマリア、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、イラン、ハイチのW杯出場国4カ国が含まれていた。

また、組み合わせ抽選会のわずか2日前には、ソマリアについて物議をかもす発言を行った。当時、大規模なソマリア人コミュニティーのあるミネソタ州で移民取り締まり措置の実施が計画されていた。

トランプ氏は、「ソマリアについて言えば、ほとんど国とは言えない。何もない。互いに殺し合っているだけだ。構造がない」と述べた。

さらに、ソマリアからの移民は「来た場所に戻るべきだ」とし、「われわれの国にごみを受け入れ続ければ、(アメリカは)間違った方向に行く」と話した。

ソマリア出身のアルタン氏が置かれた状況は、こうした状況を背景に、長年にわたって形成されたものだ。

FIFAは今回、「開催国の入国手続き、査証の審査を含め、関与していない」とした。

しかしこの背景を踏まえると、FIFAがどのようにして事態をここまで進行させたのかが問われる。

自らの審判の1人が大会に向かい、入国審査で拒否される事態が、なぜ起こり得たのか。

移民取り締まりはどこまで行われるのか

W杯開催国はこれまで、FIFAが求めるものを提供する傾向にあった。これには、関係者やサポーターの入国を緩和することも含まれていた。

これは、ロシアとカタールで開催された、最も論争を呼んだ2大会にも当てはまる。

実際にロシアは2018年の大会で、ビザを不要とするなど積極的に便宜を図った。サポーターに求められたのは、有効なパスポートと、サッカー観戦目的の渡航であることを証明する「ファンID」と呼ばれる個別カードのみだった。

カタールでは、事前審査済みの渡航・入国書類と試合入場パスという二重の役割を果たす「ハイヤカード」が導入されていた。

しかし、アメリカでは事情が異なり、さまざまな障壁がファンの渡航意欲をそいでいるとの指摘が出ている。

英サポーター団体「フットボール・サポーターズ・アソシエーション」でイングランド代表のアウェー試合でのファン大使を務めるトーマス・コンキャノン氏は4月、BBCスポーツに対し、「開催国は本来、世界中からファンを歓迎すべき立場だ」と述べた。

「そして現時点では、ファンがこれほど歓迎されていないと感じることはないと思う」

トランプ氏は、別の政権から大会を引き継いだというわけではない。トランプ氏は、2017年の最初の大統領就任から数カ月後にW杯招致の意向を示していたし、実際にトランプ政権の下で承認され、支持された。

変わったのは、移民取り締まりの範囲そのものだ。

トランプ氏は、W杯の華やかさと注目を自らの功績として受け入れているが、それがこの主要な目的から注意をそらすことはない。

アメリカに入国できないのはアルタン氏だけではない。入国禁止対象リストに含まれていないイラクのサポーターでさえ、入国を試みることを断念した経緯を語っている。

一方、イランは9日、米当局の決定により、グループステージのチケット割り当てが取り消されたと発表した。

トランプ政権が、W杯を含むあらゆるものよりも移民問題を優先していることは明らかなようだ。

次の山場は、イラン代表が初めてアメリカに入国する予定の14日に訪れる見通しだ。

イランは、チーム運営に不可欠なスタッフ15人に対してビザが発給されなかったとして、アメリカを非難している。

選手団は、各試合ごとに24時間以内に、メキシコのティフアナからアメリカに入出国することが認められているが、この運用はまだ試されていない。

自国の試合にチームが出場できない事態となれば、それは前例のない展開だ。

反差別団体フェアのポーワー氏は、「これほど多くのW杯の監督、チーム運営関係者、ファン、さらにはFIFA加盟協会の上級幹部までもが、これほど厳しい審査や排除の対象となった例はこれまでにない」と述べた。

「この規模の混乱となると、いったい誰がW杯を運営しているのかを問わざるを得ない。FIFAなのか、それとも人種的な懸念を含む移民政策を持つアメリカ政府なのか」

FIFAが審判団全員を入国させることさえできていない現状からすると、主導権を握っているのはアメリカ政府であるように見える。